ビッグサンズの挑戦
【第1回】“ツキカエタ”の5文字

どこを向いても、苦悩や悲観の色が濃い中で、きちんと前進をつづけている会社がある。どういうわけで、そうなるのか。なにか秘密があるのか。電子ディスプ レイ事業を主軸として“情報産業で最も成功したベンチャー企業”といわれるビッグサンズ(本社・大阪市北区西天満4−11−23)の現状と将来展望を、こ の連載で探っていきたい。

大阪市西天満の満電ビルにある、“電子ディスプレイ&情報システムメーカー”「ビッグサンズ」のドアを開けると、大きな声で、「いらっしゃいませ」と迎え られた。「こんにちは」とか「どうぞ奥へ」とか、つぎつぎに声がかかる。その声にしたがって進むと、自然に応接室へたどりつく。

サービス業の店先ではない。メーカーのオフィスである。受付係などはない。ワイシャツの腕をまくってデスクに向かって男子社員、パソコンのキーボードをたたいている女子社員が来客をみて立ち上がり、声をだしてあいさつするのである。

さわやか、である。もともと大阪のキタ、梅田から天満にかけての一帯は、この日本有数の産業都市でも最も活気のある一画ではある。だがビッグサンズの社内は、外に負けないほどの活力に満ちている。

壁にスローガンがある。企業のスローガンは、“努力”とか“目標達成”など重々しくなりがちだが、ここは、ひらがなやカタカナが多く、字面が明るい。

「ツキカエタ」という五文字が目に飛びこんできた。近づいて、それが五つのスローガンの頭文字だとわかった。

  • ついている人、伸びている企業と積極的につき合う
  • 二番目のは“聞き上手”になり本音でつき合う
  • は感謝の気持ちで素直に“ありがとう”
  • は笑顔でニコニコ明るく生きる
  • は他人に喜んでもらう まず身近な人に一灯をともす

一読して気分がいい。押し付けがましさがない。それにしても、ビッグサンズは好調を維持する会社だ。78年(昭和53年)10月、資本金570万円、社員 11人で創業した。20年間に黒字決算が18年、つまり「18勝2敗」の好成績をあげ、資本金5億1400万円で情報産業に成長した。だから、土煙をたて てばく進むするようなスローガンがあるのでは、と想像したのだが。

「小さな会社です。こんなにうまくいくわけがない」と、村田社長は謙虚である。「とくにこういう時期ですから」と。だからこそ、躍進の秘訣を聞きたいのである。

−−きっと秘密は、優れた技術開発力、なみなみならぬ努力、なんでしょうね。

すると、思いがけない答えであった。

「もし、なにかがあるとすれば、わたしどもの“社是”のおかげですよ」

スローガンはもともと社是から生まれている。だから社是もやわらかいトーンだ。

「喜んでもらう喜び 己もよろこびたい」後段の「己は…」は、「わたしも喜びたい」と言い替えてもいいだろう。これがなぜ好調の源なのか、くわしく聞かせてほしくなった。

(村上順一郎)


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【第2回】初めに“社是”ありき

「当社の業績は『社是』のおかげです」という村田社長の言葉の意味はすぐに理解できない。「優秀な技術のおかげです」なら納得できるのだが。

ビッグサンズの社是−−。

「喜んでもらう喜び 己もよろこびたい」これが、どう社業に役立ったのか。

村田社長も社員研修会などで若い社員に社是の意味を聞く。「ふわっとした語源ですから、いいなあ、と思ってくれるんですが意味の方は…」と気になる。答えは「いい商品をつくる」とか「安くつくる」「普及率ゼロの商品をつくることです」などと返ってくる。

最後の「普及率ゼロの…」は村田社長の口ぐせでもある。他企業のまねをしない。自分たちにしかできないことをする。だから乗り出すのは普及率ゼロの分野である。ベンチャーの心意気を示す大切なことなのだが、これが社是の解釈にならない、という。

では、なになのか。

いい商品をつくる、などといったモノの差別化ではない。「いつでもだれにでもできることを実行しよう」ということだ。

だれにでもできること、とは。

「いつも笑顔で元気のある態度、というのもそのひとつです」。

朝は、おはようございます。

お客さまには、いらっしゃいませ。これはだれにでも、いますぐできる。

それを村田社長は実行してきた。そのことで小さな会社がここまで伸びてこられた、という願いが、社是に結晶した。

この社是の源になる言葉は親しい人々との座談の中で聞いた。ある高僧がふと口にした「無財の七施」(むざいのしちせ)というお釈迦様の言葉である。胸にこ つんと響くものがあった。金や権力がなくてもできる施しである。七つがあげられたが、村田社長は、例えばつぎの二つは実行できる、と思う。

顔施(がんせ)。いつも優しい眼をしている。笑っている。 言施(げんせ)。いつもありがとう、という。いずれも、実に人間的なことである。

創業のころ、結婚式のビデオ撮影を始めたことがある。おどろいたことに、金びょうぶの前では新郎新婦の顔が真っ青に写った。色温度の影響をうけたのだった。当時の技術では避けられなかった。

それを自然の肌色にするにはどうすればいいか。けんめいに研究し、器材を開発した。ここからカラーを補正するビデオカラーコレクターが生まれ、大メーカーにOEM供給することになった。ピンボケや手ぶれを修正するビデオエンハンサーもこのとき開発した。

問題がおきてお得意さまにかけつけるとき、村田社長が心がけ、社員にも徹底したのは、「人間第一」のこころがまえだった。「どの器具が故障したのですか」と言わず。「ご迷惑をおかけしたのはどなたでしょうか」と尋ねた。お得意さまは機械でなく人間である。

すべて社是の心である。社是がある限り、ビッグサンズは成長する。だから、「社是のおかげです」も村田社長も口癖である。

(村上順一郎)

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【第3回】街の顔に“表情”を

街が動いている、と感じるときがある。

見上げる看板の「当店自慢!土用うなぎ」という文字がふっと「昼うな重定食1500円」に変わったりするときである。

商店街の看板は、街のアクセサリーだ。美しい看板はじっとしていてもきれいだ。だが動くと生き生きしてくる。この発光ダイオード(LED)を備えた電子ディスプレー看板は、動くのである。光を放ち、文字やイラストを動かし、人々に語りかける。

街が動けば、楽しさは増す。電子ディスプレーの表示は至るところにある。銀行ロビーで「有利な定期預金」を、病院で「正しい薬の飲み方」を知らせてくれる。役所では「早めに投票を」と呼びかけ、工事現場では「足元にご注意」と教えてくれる。

「今度のミュージカルは楽しめた」と喜ぶ人もいる。海外ミュージカルの日本公演で舞台の両そでに電子ディスプレー装置が付いていて、日本語の字幕スーパー が出た。外国語の歌やセリフにとまどうことなく、タイミングよく笑ったり拍手したりできた。

パトカーにも電子ディスプレーがついている。拡声器代わりに、光る文字で、ドライバーに運転の不注意を気づかせる。

街が、電子ディスプレーによってやさしい表情を持ってきた、とも言える。

電子ディスプレーのシェアナンバーワンを誇るメーカー「ビッグサンズ」は、先に紹介したように「喜んでもらう喜び 己(おのれ)もよろこびたい」を社是とする。

いくらかでも喜んでもらえるようになったかなと村田三郎社長は、ひとりうなずくことがある。

1987年、村田社長ら11人の脱サラ・グループが資本金570万円で設立した。いま資本金5億1399万円。3期連続の2けた増益である。

20年間に阪神大震災などで2年だけ赤字となったが他の年は順調。「20試合で18勝2敗」と、村田社長は独特の表現でいう。

この間、だれも乗り出さない、いわば普及率ゼロの分野へ社業を展開した。ベンチャーとして当然である。アイデアのひねりだし、お得意さんとのつながり。ベンチャーとしてならではの苦労を味わうなかで、1つだけ、握りしめてきたものがある。

「楽しみ」である。

これは自分たちが望んだ事業だ。いやいや選んだのじゃない。モノを作りだす楽しみ。それを自分たちで求めてきた。社名の「ビッグサンズ」も、欠点だらけのやんちゃな子供たち、という意味である。その楽しみだけは手放すまい。

だから社内に渋い顔はない。忙しさに緊張する顔はあっても、底に明るさがある。

それにしても、なぜだろう。巷は不況に苦しむ声が満ちているというのに。

ビッグサンズの、「これまで」と「これから」を知れば、わかるかもしれない。

(村上順一郎)

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